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 七章 遣らずの雨に濡れ [ きみのたたかいのうた ]

 何から、話そうか。

 そうだね、まずはお前のことから話すよ、ナルト。
 四年前の話だ。
 暁とのごたごたも一段落して、復興も軌道に乗って里が平穏を取り戻したように見えた。
 その隙を突かれたんだな。
 お前は九尾の人柱力で、暁に奪われて、尾獣の力を持った人柱力は、ナルト一人だけになっていた。
 お前には腹立たしいかもしれないが、人柱力が各里に一人いることで、バランスが保たれていたっていう面もあってね。それが暁の襲撃で狂った訳だ。
 木ノ葉だけに残された、最強の尾獣の人柱力。他の里からしてみれば、目の上の瘤もイイトコだな。
 それでも、ま、暁打倒の中心となったのが木ノ葉だったから、表立っては誰も何も言えなかった。言えなかった、が、不満は燻っていたんだろうな。
 任務にかこつけて、お前は狙われた。
 相手の要求は簡単だった。
 お前が九尾を抱えて死ぬこと。
 恐らくどこかの隠れ里の仕業だろう……大分調べたんだけど、見事なまでに痕跡が消されていてね……結局黒幕は分からず仕舞い。
 戦争を仄めかされて、人質もいて、お前が選んだ道は想像通りだったよ。
 オレやサクラが止める間もなく、辿りついた時には全てが終わっていた。
 ……今でも、夢に見る。

 ついでに、それからの歴史も話しておこうか。さっきの、砂の襲撃にも関わってくるしね。
 お前が死んだ後。
 木ノ葉は怒りに燃えたけど、戦争を起こすことも憚られた。何よりナルト、お前は望まないだろう?
 だけど、暁が人柱力から剥がして集めた八体の尾獣がまだ残っていた。
 木ノ葉主導で、尾獣を集めた像ごと封印していたんだよ、最初はね。
 だが九尾はいなくなり、残った尾獣は全てそこにある。つまり一つでも、出来れば複数、手に入れれば大きな力を持てると考えた里が幾つもあった。
 暁の蹂躙で、穏健派の五影が次々命を落としていたのもそれに拍車をかけた。
 新たに五影となった方々はどうしても過激派が多かった。暁に完膚なきまでに里を荒らされたからね、力を求め、力があれば自衛できると考える向きがあまりに強かった。
 穏健派の筆頭だった綱手様も、孫のように可愛がってたお前の死で、がくりと落ち込まれたんだろう……呆気なく病に倒れ、息を引き取られたよ。

 尾獣を手に入れたい。
 だが他の里が手に入れるのは避けたい。
 綱渡りのような睨み合いが暫く続いたけど、ある時あっさりと均衡は崩れた。
 一つの隠れ里が、強行突破して二尾を奪っていった。
 極限まで張りつめた緊張が破れれば、後はもう濁流にのまれたようなもんだったよ。
 尾獣、それを操れる人柱力が一人いれば、里一つ滅ぼすことだって出来る。大国と呼ばれている木ノ葉や砂を呑み込むことだって夢じゃないと考えた小さな里がまず尾獣に群がった。
 そうすると五大国も易々と自らを脅かす可能性を放置しておくことは出来ないから、慌てて尾獣争奪に加わった。
 泥沼の争いだ。
 尾獣をどうにか操ろうとし、人柱力を生み出そうとし、生み出された人柱力が力を揮う前に暗殺することを狙う。
 第四次忍界大戦の始まりだった。

 悪いことに、そこにサムライ達の意図が加わった。
 表面上は取り繕っていたが、もともとサムライと忍ってのは仲が悪くてね。サムライは忍を、手段を選ばず汚い仕事をする連中だと見下しているし、忍はサムライを、綺麗事しか言わない輩だと嘲っている。
 忍が使うチャクラの技も、サムライたちからしてみれば異形のわざだ。理解できないもの、自分達とは違うものを異端とはじくのは人の常だからな。
 国の軍事力が、異形じみた忍に大半任されていることも許せなかったんだろう。
 第三次忍界大戦までは、忍たちもサムライに介入されないよう、圧力をかけるぐらいのことは出来た。それだけの力も持っていた。
 だけどその力も、暁によって失われた。追い打ちを掛けるかのようにこの争いだ。
 何を考えるか、分かるだろう?
 さまざまな思惑が交錯し、特に過激な一派がからくりを持ち出して小さな里を攻め滅ぼしたところから火柱は上がった。
 憎しみの連鎖とはよく言ったもんだよ。
 忍同士の争いに、サムライとの争いも加わる。当然、国内は混乱する。それに乗じた内乱が起きる国、裏組織が台頭する国、攻められる前にと侵略する国、中立を保ちながら漁夫の利を狙う国。
 もうここまでくると世界大戦って勢いだね。
 今この世界は、戦乱の渦の真っ只中にある。
 木ノ葉は幸い、復興の兆しも早かったし、人も多かった。火の国は忍に寛容な風土だったから、木ノ葉を擁する火の国そのものと争いになってないことも大きかった。
 波の国と誼を結んでいたから、海産物の輸入も比較的に楽に出来た。米や野菜なんかの最低限の食糧は自給出来るようにもしてある。
 腹が減っては戦は出来ぬって言うでしょ。
 今やその食糧を巡っての戦争さえ始まっている。
 今木ノ葉は一時的な小康状態にある。大規模な戦火には巻き込まれていないけれど、もう時間の問題だろう。


 ────火影岩、見たの。
 あれを直す余裕もないんだよ。里への侵攻はなくても、侵入者なんて日常茶飯事だ。
 里の内部を守ってればいいってもんじゃない。火の国と事を構えるなんて最悪の事態にならない為にも、最低限の依頼をこなす必要がある。防衛・諜報・謀略、里を守る為にも忍を派遣する。人はどんどん減ってゆくけど、忍が育つのには時間がかかる。人手が絶対的に足りない。

 砂隠れはもっと荒れている。
 あそこは砂漠だから、食糧の問題が木ノ葉とは比べ物にならないくらい切実だ。肥沃な土地を抱える木ノ葉を攻め落としてしまえという意見も多い。
 それを、我愛羅くんが木ノ葉には恩義があるからって言ってね、なんとか抑えてくれているのが現状……だけど個人までは管理しきれないから、さっきみたいに里に侵入し、事実上の戦争状態に持ち込もうとする輩が後を絶たない。
 ────絶望した? ナルト。
 お前のいない世界は、こんなにも簡単に崩れ去ってしまったよ。
 ああ、勘違いしないで。お前の死が原因だなんて思ってない。ただ、切欠の一つであることは確かだ。
 お前は、それだけの影響力があるんだ。
 人にも、────オレにも。


 お前がいなくなって、思い知ったよ。
 オレはさ、ナルト。今の、あの時間から来たお前ならよく知っていると思うけど、里の為って言われれば死だって厭わなかった。
 一度死んだこともある。
 それでもオレは、お前を失うまで、遺されたお前がオレの死に何を思うか、なんて分かっちゃいなかったんだ。

 仲間を大切にしろとオレは教えたね。お前はそれを誰よりも守ってくれた。自慢の部下だった。
 だけどオレは忘れていたんだ。お前は確かに、オレの背を見て育ったんだって。
 オレは仲間を今度こそ守りたかった。亡くしてくことに耐えられなかった。
 だけど、……自分も、彼らにとって仲間だってことを忘れていた。
 いや、考えないようにしていたのかもしれない。
 先生を、オビトを失ってから、オレは彼岸のほうばかり見ていたから。だから、置いていかれるより、置いて逝きたかった。
 それを、誰よりもお前は見ていた。
 サスケとオレが似ていると思っていたけれど、オレとお前もどこか、似ていたんだ。
 お前は初めから何も持っていなくて、やっと手に入れた繋がりが大切で、大好きで。自分はどうなっても守ろうとするって。少し考えれば分かるはずなのに、オレは自分で手一杯で、気付いていなかった。
 お前はオレの教えを守って、仲間を守り里に希望を灯し死んでしまった。
 自分の愚かさに反吐が出るほど後悔したよ。
 ナルト。お前が選んだ死は、オレが卑留呼と戦った時選んだ道筋そのものだったんだから、さ。
 ある意味、お前を殺したのはオレの弱さなんだよ。

 ナルト。


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